INTERVIEW

ソニックガーデン 藤原士朗さん

AI時代だからこそ、プログラマを育てたい。ソニックガーデンが取り組む「職人の育成」と若い世代への期待

INTERVIEW

AI時代だからこそ、
プログラマを育てたい。

株式会社ソニックガーデン
取締役副社長 藤原士朗さん

藤原士朗さん

「プログラマは職人である」。そんな考えから、親方と弟子による徒弟制度を導入している株式会社ソニックガーデン。

AIの進化によってソフトウェア開発の在り方が大きく変わる中、同社は若手の育成に力を入れ、高卒採用や小中学生向けプログラミング部「セタプロ」にも取り組んでいます。

今回は、同社の取締役副社長・藤原士朗さんに、独自の開発スタイルや人材育成の考え方、AI時代のプログラマに求められるもの、そして中高生Rubyプログラミングコンテストへの期待についてお話を伺いました。

藤原士朗さん

藤原士朗

株式会社ソニックガーデン 取締役副社長

「納品のない受託開発」という仕事のかたち

――まず、ソニックガーデンがどのような会社なのか、ご紹介いただけますか。

藤原: ソニックガーデンは、社員が70名弱で、その9割ほどがプログラマというシステム開発の会社です。

私たちが創業時から続けているのが「納品のない受託開発」です。一般的なシステム開発は、仕様を決めて作り、完成したら納品するという形ですが、私たちは月額定額制で、お客様の事業に伴走しながらシステムを育てていきます。

ソフトウェアって生き物だと思うんです。事業が成長すれば必要な機能も変わりますし、その時々の課題に合わせて改善していく必要があります。ですから、開発の終わりを決めるのではなく、お客様の相談に乗り、事業を一緒に作っていくパートナーでありたいと考えています。

――創業から15年以上になりますが、当初の考え方は変わっていないのでしょうか。

藤原: それが驚くほど変わっていないんです。

半年ほど前、プログラマ全員が集まる合宿で、社長の倉貫が15年前のプレゼンテーション資料を持ってきたんですよ。当時は「ソフトウェアパートナーシップモデル」という名前で説明していたのですが、書いてあることが今とほとんど同じでした。

お客様の悩み相談から始めて、信頼関係を築き、事業の問題を一緒に解決していく。この本質はずっと変わっていません。

親方と弟子でプログラマを育てる

――ソニックガーデンでは、プログラマを「職人」と考え、徒弟制度を採用しているそうですね。

藤原: はい。私たちの仕事は、お客様と直接話しながら課題を理解し、その場で設計や提案をして、自分で実装までするというものです。

レストランでいえば、オーナーシェフのような仕事ですね。お客様が来たら、その人に合わせてメニューを考え、料理を作る。かなり高度な仕事ですから、一人前になるまで時間がかかります。

以前は、経験豊富なプログラマたちがフラットな関係で働いていました。ただ、それだと若手が育ちにくかったんです。

料理人なら、下ごしらえや厨房の片付けなど、修行の入り口になる仕事がありますよね。でもソフトウェア開発では、そういった仕事の多くが自動化されてしまっています。若手が手伝える仕事が少なく、成長の機会を得にくいという問題がありました。

そこで2022年から、ベテランプログラマに「親方」として育成の責任を持ってもらい、その仕事を手伝いながら学ぶ「弟子」の制度を始めました。

――弟子になってから、一人前になるまでにはどのくらいかかるのでしょうか。

藤原: 実は、入社したらすぐに弟子になれるわけではないんです。

まず「訓練生」という段階があって、技術の基礎や仕事の進め方、セルフマネジメントなどを学びます。これに半年から1年くらいかかります。

その後、弟子入門試験に合格すると、親方の仕事を手伝えるようになります。2〜3年ほど経験を積むと、小さなプロジェクトなら自分で進められるようになってきます。

全体として3〜4年ほどで一定の仕事を任せられるようになり、5〜7年くらいでベテランと対等に議論し、仕事を進められるようになるイメージです。

ただ、弟子というのは等級ではなく関係性です。ある親方の弟子になったら、その関係は一生続きます。

――フルリモートワークの会社で、親方と弟子が一緒に働くというのも面白いですね。

藤原: 私たちは2016年からフルリモートワークに移行していて、社員は全国に散らばっています。

ただ、職人の育成では、上手な人の仕事を見る、真似してみる、フィードバックをもらう、というプロセスが欠かせません。これはリモートだけでは難しい。

そこで、全国各地に「親方ハウス」という小さなオフィスを設けています。現在は岡山、広島、兵庫、愛知県瀬戸市、東京の5拠点があり、沖縄にも新しい拠点を作る予定です。

若手は親方のもとで数年間一緒に働き、技術や仕事の進め方を学びます。十分に成長し、セルフマネジメントができるようになったら、働く場所も自由に選べるようになります。

――実際に徒弟制度を導入して、どんな変化がありましたか。

藤原: 弟子が育ったのはもちろんなんですが、実は親方がものすごく成長したんです。

人を育てるって、とても難しい仕事なんですよね。同じ教え方をしても、人によって伝わり方が違います。その人の状態を見ながら、どうすれば成長できるかを考え続けなければいけません。

でも、自分が身につけてきたものを次の世代に伝えるというのは、人間にとって大きな喜びでもあると思うんです。

結果として、組織の中に若手をしっかり見てくれる人たちが育ちました。以前は経営陣が全員を見るような構造だったのですが、親方たちが育成を担うことで、会社全体がずいぶん安定しました。

AIがコードを書く時代に、何を学ぶべきか

――AIによって、プログラマの仕事も大きく変化しています。ソニックガーデンではAIをどう捉えていますか。

藤原: 私たちのビジネスモデルにとって、今のところAIは非常に強い味方だと考えています。

従来の人月型の開発だと、AIで開発時間が短くなれば、その分だけ売上が減る可能性があります。

でも私たちは、もともと少人数で生産性を最大化し、お客様に時間ではなく成果を提供することを目指してきました。AIによって生産性が上がれば、より多くのお客様を支援できるようになります。

もちろん、お客様自身がAIでシステムを作り始めたり、Webサービスの事業そのものがAIによって変わったりする可能性はあります。ただ、私たちの仕事の進め方自体は、AIと相性が良いと思っています。

――一方で、AIがコードを書いてくれるようになると、若手をどう育てるかが難しくなりませんか。

藤原: そこが今、私たちも一番考えていることです。

私たちは、お客様のシステムについて責任を負う「開発責任者」という仕事をしています。

障害が起きたとき、セキュリティ上の問題が起きたとき、きちんと対応する責任があります。そのためには、今作っているシステムがどう動いているのか、何が起きているのかを理解していなければいけません。

今のベテランたちは、自分でコードを書き、自分で設計してきた経験があります。だからAIを使っていても、システムの全体像を把握し、問題が起きたときに対応できます。

でも若手が最初からAIに全部作らせてしまうと、動いているけれど中身はわからない、という状態になりかねません。それでは責任を負えないんです。

――AIを活用しながら、コードを理解する力も育てる必要があるわけですね。具体的にはどうしているのでしょうか。

藤原: 基本的にはAIをどんどん使っていいんです。ただし、AIが作ったコードも含めて、すべて自分で説明できるようにさせています。

親方が「このコードはどう動いているの?」と聞くと、理解していない部分はすぐにわかります。そこで説明できなければ、もう一度調べて理解してきてもらう。

訓練では、同じようなアプリケーションを何度も作らせます。AIを使って作る、自分で作り直す、作ったものを説明する。そうしたことを繰り返して、理解を深めていきます。

――実際の仕事ではAIを最大限活用しつつ、訓練ではあえて時間をかけて理解を深めるということですね。

藤原: そうです。ここで大事なのは、訓練生には「まだ成果を出さなくていい」と明確にしていることです。

仕事で成果を出すのが目的なら、AIをフル活用して生産性を上げるべきです。でも訓練生は、今すぐ成果を出すことが目的ではありません。将来、責任を持って仕事ができるようになることが目的です。

だから、育成にかかるコストが本人の生み出す成果を上回っても構わないと考えています。

こうした期間を組織として用意しないと、AI時代に人を育てるのは難しいと思うんです。

大学を出ていなくても、プログラマになれる道を

――ソニックガーデンでは、2026年から高卒採用も始めたそうですね。

藤原: はい。今年は4名が入社し、来年も3名が入社する予定です。

その中には、2024年の中高生国際Rubyプログラミングコンテストの入賞者もいるんですよ。

――それはうれしいですね。高卒採用に取り組もうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

藤原: 一つは、プログラミングが本当に好きな若者に、もっと早くから活躍する道があってもいいのではないか、という思いです。

大学で情報系を学んでいる学生でも、プログラミングが好きで好きでずっとやっているという人には、実はそれほど多く出会いません。

一方、中高生のプログラミングコンテストを見ると、高校生のうちから本当に熱心にプログラミングに取り組んでいる子がいます。

工業高校の先生方にもお会いしました。生徒たちのものづくりに非常に熱心に取り組まれていて、こうした先生方が日本の技術者育成を支えてきたのだと感じました。

ところが、工業高校から自動車メーカーや電機メーカーなどに就職する道はあっても、高卒でソフトウェアのプログラマになる道は意外と少ないんです。

プログラミングが大好きで、もう働きたいと思っているのに、就職先がないから進学する。そういう状況があると知りました。

工業高校の先生方に聞いたお話を記事にまとめていますので、興味がある方にはぜひ読んでいただきたいです。

とりあえず進学は本当に正解か?高卒プログラマが「幸せに働く」ための新しい進路とは

――ソニックガーデンの職人育成の仕組みなら、高校卒業後すぐに受け入れられる、と。

藤原: そうですね。

私たちはプログラマを職人だと考えていますから、年齢や学歴よりも、技術を磨きたいという気持ちが大切です。

しかも、親方と弟子の制度があるので、時間をかけて育てる環境も整っています。

実際に高校卒業したばかりの若手を育ててみると、技術以外にも、社会性や他者と協働する力など、身につけるべきことがあるとわかりました。そこには半年ほどかけて取り組んできました。

今では自分でいろいろなものを作れる段階に入ってきていますし、来年4月には親方のもとでの修行を始める予定です。

高卒でもプログラマになれる、という道をもっと広げていきたいですね。

「セタプロ」で、プログラミングを通じて仲間や社会とつながる

――さらに、小中学生向けのプログラミング部「セタプロ」も始められたそうですね。

藤原: はい。「セタプロ」は「世田谷プログラミング部」の略です。2025年12月に一般社団法人を立ち上げ、2026年4月から活動を始めました。

最近は、世田谷を飛び越えて活動が広がりそうなので、「セタ」は「切磋琢磨」のセタだと言い始めています(笑)。

始めた背景には、小学生と高校生の間に、プログラミングを続ける場所が少ないという問題意識があります。

今は小学校でScratchに触れる機会がありますし、高校には工業高校や高専など、技術を学ぶ道があります。

ところが中学校になると、プログラミングを継続して学べる場所が少ないんです。特に公立中学校では、プログラミング部がある学校はまだ限られています。

プログラミング教室という選択肢もありますが、習い事はどうしてもお金がかかります。家庭の経済状況によって、学ぶ機会に差が生じてしまいます。

そこで、地域の子どもたちが参加できるプログラミングの部活動を作ろうと考えました。

――「教室」ではなく「部活動」としているのは、どんな理由からですか。

藤原: プログラミング教室は、一人ひとりに合わせて学習内容を用意する、個別最適な教育が中心です。

それはそれで素晴らしいのですが、私たちが作りたいのは、仲間と一緒に成長する場所なんです。

部活動には、共通の目標やルールがあります。先輩と後輩という関係もあります。

先に学んだ子が後から入ってきた子に教える。時には教え方がうまくいかず、教わる方が不満を持つこともあります。でも、そうした経験も含めて、仲間と関わりながら成長していくことが大切だと思っています。

イメージとしては、プログラミング版のボーイスカウトや、地域の少年野球クラブに近いですね。

――セタプロでは、どんな体験を大切にしているのでしょうか。

藤原: 大きく三つあります。「自分とつながる」「仲間とつながる」「社会とつながる」です。

まず「自分とつながる」。

中学生くらいになると、どうしても受験や成績のための勉強が増えていきます。でも本来、学ぶことって面白いはずなんです。

プログラミングは、自分で考えたことをすぐに試せて、動いたり失敗したりする。その試行錯誤の中で、学ぶことの面白さを感じやすいと思います。

「自分はこれをやりたい」「これを作ってみたい」という気持ちを大切にしてほしいんです。

次に「仲間とつながる」。

同じ学校にプログラミングが好きな友達がいなくても、学校を越えて仲間に出会える。チームで何かを作ったり、教え合ったり、一緒に大会を目指したりする。

そうした経験を通じて、技術だけでなく、人との関わり方も学べると思っています。

最後が「社会とつながる」です。

これは私たち大人が用意してあげたい部分なんですが、今、子どもたちが作ったものを通じて寄付やNPOへの支援につながるようなプラットフォームを準備しています。

自分が磨いた技術が、誰かの役に立つ。中学生のうちからそういう経験ができれば、自分が社会の中でどんな役割を持てるのかを感じられるようになると思うんです。

――現在はどのように活動を広げているのでしょうか。

藤原: 最初の拠点は、世田谷区尾山台にあるソニックガーデンのオフィスです。10名ほどの部員がいて、1回あたり5〜6名が活動に来ています。

さらに、フリースクールへの展開も始めています。

フリースクールにも部活動がないことが多いので、私たちがパソコンや教材を提供し、地域の大人たちに指導してもらう仕組みを作っています。

最初の拠点がこの10月に始まったばかりなんですが、予想以上に子どもたちが参加してくれて、うれしい驚きがありました。

地域の大人たちが地域の子どもたちを育てる。そのきっかけとしてプログラミング部がある、という形を作っていきたいですね。

――将来的には、セタプロから高校、そしてプログラマとしての就職までつながっていくのでしょうか。

藤原: 実は、そういう構想もあります。

もともと、ソニックガーデンとして、通信制高校の学習を支援する「通信制サポート校」を作りたいという考えがあったんです。

プログラミングを本格的に学びたい子が、高校段階でもその道を選べるようにしたい。そして、卒業後はソニックガーデンに来てもいいですし、他の会社で活躍してもいい。

そのためには、まず小中学生の段階でプログラミングを好きになり、本気で取り組む子どもたちが増えることが大切です。

少年野球のクラブで活動している子が、強い高校の野球部を目指すように、プログラミングにもそういう道があっていいと思うんです。

12歳くらいから始めて、65歳くらいまでプログラマとして活躍する。そんな長い時間軸で考えています。

プログラミングコンテストは「本気を出せる場所」

――AIがコードを書くことも当たり前になってきた今、プログラミングコンテストにはどんな役割があると思いますか。

藤原: AIのことはいったん置いて、もっと普遍的な話をすると、「本気を出せる場所」があること自体に大きな価値があると思っています。

例えば、テニス部に入っている子がみんなプロテニスプレーヤーを目指しているかというと、そうではないですよね。

プログラミング部も同じだと思います。部活動として参加している子もいれば、本当にプログラミングが好きで、もっと面白いものを作りたいと思っている子もいます。

そういう本気で取り組みたい子にとって、普段の部活動だけでは物足りないこともあるでしょう。

そこで、学校や地域を越えて、自分の実力を試し、本気をぶつけられる場所がある。それがプログラミングコンテストの価値だと思うんです。

甲子園のようなものですよね。

AIを使うかどうかは、どんな道具を武器として使うかという話です。それよりも、自分が本気で作りたいものを作り、挑戦できる場所があるということが大切だと思っています。

参加者へのメッセージ――悔いが残らないくらい、本気でやってほしい

――最後に、コンテストに参加する中高生の皆さんへメッセージをお願いします。

藤原: 昨年、一昨年の大会を見させてもらいましたが、出場していた先輩たちは本当にかっこよかったです。

作品を本気で作り込んで、締め切りがある中でなんとか完成させて、さらにそれを人に伝えるために一生懸命練習して発表する。その姿がすごく印象に残っています。

中高生の皆さんには、学業もあるでしょうし、他の部活動もあるかもしれません。それでも、せっかく挑戦するのであれば、自分の中で悔いが残らないくらい、本気でやり切ってほしいと思います。

その中に、自分らしさや、自分なりのこだわり、自分が大切にしていることを込められたら、もっといいですね。

結果だけでなく、そこまで本気で取り組んだという経験そのものが、人生にとって非常に大きな意味を持つと思います。

ぜひ、このコンテストを、自分の本気をぶつけられる機会にしてください。